血液中には酸素を運搬する赤血球という細胞がありますが,この細胞中には酸素を運ぶヘモグロビンという色素が含まれています.『貧血』とは,このヘモグロビンが少ない状態を言い,その大半はヘモグロビンの材料である鉄不足が原因です.貧血の人は全身が酸素不足となるため,立ちくらみ,動悸,息切れ,頭痛,めまい,疲労,肩こり,消化不良などさまざまな症状が出ます.
●ヘモグロビン
正常な成人女性のヘモグロビン値は11-14g/dL.一般にヘモグロビン値が10g/dL以上あれば日常生活には支障ありませんが,これ以下になると階段の上り下りなど軽度の運動で息切れするようになります.またヘモグロビン値が8g/dL以下になると平地を歩いていても息切れするようになり,日常生活に支障をきたすようになります.
●女性の半数は貧血か貧血予備軍
一般に体内には数年分の鉄の備蓄があります.しかし女性は月経や妊娠・出産などにより鉄を消費する機会が多いため体内の鉄が不足しがちです.ヘモグロビン値が11g/dLより低いと『貧血』ですが,ヘモグロビン値が正常でも体内の鉄の備蓄が少なくなると『貧血予備軍』となります.現在の日本では成人女性の10%が鉄欠乏性貧血,40%が鉄欠乏状態(貧血予備軍)であると推測されています.
●鉄欠乏性貧血の治療
明らかな鉄欠乏性貧血の場合,食事療法のみでは治療は不十分です.病院を受診し,鉄剤を処方してもらうようにしましょう.鉄なべ,鉄のフライパンなど,鉄でできた調理器具を使うのも効果的です.
●鉄欠乏性貧血の食事療法
1)ヘム鉄と非ヘム鉄
鉄分には魚や肉に含まれる『ヘム鉄』と,野菜や穀類に含まれる『非ヘム鉄』があります.ヘム鉄は非ヘム鉄に比べて腸での吸収が数倍以上よいので,貧血の際にはヘム鉄を十分摂るようにしましょう.
【ヘム鉄を含む食品】
豚レバー,やつめうなぎ,煮干,あゆ,など
【非ヘム鉄を含む食品】
ほうれん草,大豆,ひじき,あさり,しじみ,切干大根,など
2)非ヘム鉄とタンパク質
非ヘム鉄も動物性タンパク質といっしょに摂ると吸収がよくなります.献立の工夫をして,非ヘム鉄からも鉄分を吸収するようにしましょう.
例)
豚肉+小松菜=小松菜と豚肉の炒め物
牛乳+ほうれん草=ほうれん草のグラタン
卵+凍り豆腐=凍り豆腐の卵とじ
3)ビタミンも忘れずに
鉄分から血液をつくるにはタンパク質,ビタミンB6,ビタミンB12,葉酸,ビタミンC,銅など多くの栄養素が必要になります.いろいろな食材を偏りなく食べるように心がけましょう.
4)調味料でも工夫を
酢や香辛料などを使った料理は胃酸を分泌して鉄分の吸収をよくします.
5)お茶に注意
食前・食後の緑茶,紅茶,コーヒーに含まれるタンニンは鉄の吸収を抑制します.どうしても飲みたいときはほうじ茶やウーロン茶を飲みましょう.なお鉄剤を内服しているときはお茶を控える必要はありません.